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全身に優しいキスを受けてうっとりした。
「綺麗だ」
「愛してる」
こんな陳腐なことを私相手に言ってくれるのなんて、希彦しかいない。お返しがしたい、どうしても。身体をねじると、首を傾げて怪訝そうに私の顔を覗き込んだ。優しく少し潤んでいる綺麗な瞳で。その身体をすりぬけて上になる。希彦に跨って全身にキスのお返しをする。私よりずっと大きな長い身体。頑張る身体。患者さんを瞬時に救う身体。尊い。心を込めて口づけを贈ると甘い吐息が段々と増えてきた。
「絵梨花、」
「ん?」
「今度は俺がしたい。」
耐えかねたような声がする。でも待って、まだ全然だよ?言葉の途中なのに、希彦が背を起こして急に唇を包み込む。
「ん…」
もう本当にどこからが希彦の身体でどこからが私なのか、わからない。
こんなに優しいのは初めてだった。心が素直になると、身体も何だかまろやかになるみたいだ。希彦の髪の毛や吐息が触れるだけでたまらない気持ちになる。勝負なんかじゃない。ただ好きで気持ちが良くて身体が熱くなる。素直に応えていると、
「今日の絵梨花、ほんとに可愛いな。」
と柔らかな声が降ってきた。
そうか、私が素直になると希彦も柔らかくなれるんだ。今までは殆どいつも“勝負”だった。どっちが先にギブアップするかの。それはそれでとても刺激的で満足のいくものだったけれど。でもそうではない、慈しみ合いながら繋がることは深い安堵を与えてくれるのだと、今初めて知った。嬉しくて幸せですぐにとろけてしまう。反応の速さに希彦も気付いたようだった。
「もう?」
と驚いたように訊かれて、返事の代わりに首に手を絡めてキスをねだる。
「今日は俺の株を奪うねえ。」
からかうように言ったくせに、とことん真面目なキスをされる。この人の肺活量は一体どのくらいなんだろう。
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