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「はい、これ」  次の日の昼休み、弥生が昨日のハンカチのお礼を手渡そうとすると、真は少し困り顔になりながら 「いやいや、受け取れないですよ」 と言って拒否をしようとした。 「いいから、受け取ってよ。い……真君から貸してもらったはんかちタオルを汚しちゃったから、その代わりよ。中身は大したお返しでもないんだし、受け取ってよ。年上の人の好意は、素直に受け取っておくものよ」 「じゃあ、すいません」  そう言って真は弥生から受け取った紙袋をロッカーへとしまった。  紙袋の中には、昨日真から差し出されたものと同じ白地のハンドタオルと、あとは弥生が選んだ柄の入ったハンドタオルが二枚入っている。極力若い男向けの柄を選んだつもりではあったが、それが真の趣味に合うのかどうか、弥生は心配だった。 「ねえ、一度開けてみて?」 「いいんですか」 「ええ」  真は一度仕舞った紙袋を取り出して、包まれた包装紙を破らずに丁寧に解いていく。爪で引っ掛けてセロハンテープの端を上げてセロハンテープを剥がしていく方法ではなく、鋏で接着部のセロハンテープを切っていくという方法で包装紙を脱がしていくので、包装紙が傷つかない。しかも、包装紙が鋏の刃で傷つかないように刃先の位置に気を遣いながらゆっくりと刃を入れる。そのくせ、セロハンテープは何の迷いも無く一気に刃で挟んで切ってしまう。最初の行動からは真の優しさと温かさが垣間見れた。ただそれだけなら、単なる優しい青年だが、刃を一気に握りこむ行動が真の冷たさと残酷さを見せているような気がする。しかし、妙に艶っぽい動きをする男だ。それでいて声は野太いのだから不覚にも笑ってしまう。 「ハンドタオルが三枚も……、ほんとすいません」  包装紙を開け終えた真はそう言って机に広げられたハンドタオルを広げている。  無邪気に喜ぶ笑顔が、伝染したのか自分の頬も緩んでいく。 「いいのよ。お礼なんだし。それに、そういう時は『ありがとう』よ」  笑顔でそう返す。 「そうですね、お礼の方がいいですもんね。すいませ……」 「ほら、また……」 「すいま……」  また謝ってしまったのを誤魔化すかのように真は弥生に向かって笑いかけた。  はにかむ様に笑ったその顔は、どことなく少年っぽさが残っていた。 「謝ってばっかりね、真君たら」  その笑顔につられる様に弥生も笑う。  ただ可笑しかっただけで笑ったわけではなくて、それが真の笑顔に釣られて出てきたものだということに弥生は気づいていなかった。
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