35人が本棚に入れています
本棚に追加
16
美樹が部屋に着替えに行くのを見計らって、夕食の準備の手を止メッセージと、エプロンからスマホを取り出した。
折りたたみのスマホを広げると、そこには『メッセージ着信あり』と表示されていた。
メッセージの絵が書いてあるボタンを押し、メッセージの受信箱を呼び出す。
そこに表示されたのは、洋介の名前だった。
『今日、帰りは遅くなる』
いつもの簡素なメッセージの筈を読みながら、深い溜息をついた。
自分がついた深い溜息に弥生は驚いた。
なんで私は残念そうに溜息をついたのだろう。ただ、真からのメッセージが来ないだけで何でこんなに気にしてしまうのだろう。
出てくる疑問の答えが出なくて、何だか不思議だった。
もう一度溜息をつき、スマホを閉じてエプロンのポケットに入れようとした時に、またスマホが震えた。
確認しようと受信箱を開く。
『真君』
という文字を見た瞬間に、息が詰まった。
先程まであった沈んだ感情が急に浮かび上がりすぎて、体がついていけなかった。
メッセージには『郁仁真です。確認の為にメッセージしました。これからもよろしくお願いします』とだけしか書かれていないにも関わらず『嬉しい』という感情が胸の中を甘く染めた。
『メッセージちゃんと届きました。こちらこそ、よろしくお願いします』
と書いて、メッセージを返信してスマホをポケットの中に入れる。
「ママ、今日のご飯何?」
急に後ろから声を掛けられて吃驚した弥生が振り向く。
「ビックリした、美樹、いつからそこに居たの?」
「今来たばかりよ。あれ、ママ、顔赤いよ?」
頬に手を当てると、何だか熱い。
胸の中にあった感情が、胸の中だけに留まらず、頬から噴き出しているかのようだった。
「からあげ、作ってたからね。熱いのよ」
「本当?パパからのメッセージ見て赤くなったんじゃないの~?」
からかう様にそう言って悪戯っぽく微笑む美樹に「そんなわけないわよ」と答え、盛り付け終えた夕食を机へと運ぶ。
「ふーん。それより聞いてよ、ほんと参っちゃうよ。先輩がさ……」
美樹の話にうんうんと頷きながら、夕食の皿を並べる。
いつまで経っても引かない頬の熱を美樹に見られていると思うと、何だか恥ずかしかった。
最初のコメントを投稿しよう!