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 ベッドの中で二人は果てたままの状態で抱き合っていた。 「ねえ、真君……、なんでアタシとしようと思ったの……?アタシ、もうすぐ四十よ?もうオバさんなのに……」 「だって弥生さんの表情がかわいかったから……」 「え?」 「僕の名前を初めて呼んでくれた時、少し頬が染まったんですよ。それが、忘れられなくて」 「そうなんだ……」  その言葉に照れを覚えた。  今、頬で巡る血は多分その時と同じ頬の染め方をしているだろう。 「それに、その後から弥生さん、どんどん艶が出てきたんで……」 「そうかしら」 「ええ、で、その艶を出させているのは旦那さんのお陰かな、とか思ったら胸に凄く嫉妬心が出てきて……」  弥生の頬に負けないぐらいに頬を紅潮させた真は、はにかみながら頭を掻いた。その表情が胸の中の思いを愛撫する。  ゆっくりと唇を近づけた弥生の表情につられるように、真は唇を近づけながら目を閉じた。  唇の感覚は、行為前とは違って少し鈍い。でも、敏感になった感覚に再度火をつけられた真は、まだ弥生の中に残る自らのものを膨張させた。 「弥生さん、もう一回……」 「駄目……、時間が……」  時間を確認してそう言うと、真はまたお預けをくらった犬のような表情を浮かべた。  真が弥生の中からモノを引き抜く。  蛍光灯の光でぬらぬらと光るそれは、まだ余力がありそうな硬度を誇っていた。  真の唇にもう一度キスをして 「明日もしてあげるから」 と伝えると、真の唇の温度が少しだけ上がった。  手で股間を弄り、真の反応を楽しむ。  情けないあえぎ声を出す真の反応が加虐的な心を刺激して、行為に没頭させるように仕向けてくる。  弥生は真を苛めながら、あの時見た週刊誌のことを思い出していた。 『艶度低すぎ、ご注意を』  あの診断は、当たっていなかった。  まだ艶が残っていた。  その艶が、この満たされる恋を呼んだのだ。  弥生は自分の幸せの海に沈みながら、水面を見上げてその美しさに溜息をついている。  自分の出した気泡は上昇し、水面を揺らしてそこに写る空の絵を崩していく。それが何となく美しくて、弥生はその光景を作る為に息を抜いていく。  自分の息の残量が無いことなど、知らないように、何度も、何度も、息を吐く。 ***  それからというもの、弥生と真はバイト後に行為に耽るようになった。  かろうじて避妊はしていたが、それ以外は自分達が燃え上がるのなら、何でもした。  弥生の中で一番長い間相手をしてきた洋介ですら知らない痴態を真は知っており、それが弥生の背徳感を刺激して、二人はなお一層深いプレイに耽溺していく。  水面を見上げながら沈み行く二人は、とても幸せそうだ。  このまま沈んで行きたい。  そんな空想に耽る二人はふとした瞬間に目が合って見つめながら笑いあう。 『今、こんなこと考えていたでしょ?』  そう言わなくても、互いの思いを熟知していた。  この恋の果実は、実となってぶら下がっている。  見せ付けるような艶を持ったこの実には、赤々とした色がついていて、実が熟しつつあることを知らせていた。  でも、永遠に熟すことはない。  その事実に、二人は気付いている。  二人の血を引いた子供を孕むというある種の到達点に行けないことを、弥生も真も知っていて目を逸らした。だから、心の何処かで真剣になれずに、快楽だけに溺れていってしまうのだ。  熟して赤くなっていく果実は、艶を持っていく。  まるで、誰かに食されることを夢見るその果実に誰も気付かない筈が、なかった。
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