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 朝、珍しく二十分も早くパート先の駐車場に着いた弥生は警備員が常駐する部屋に太田書店の休憩室の鍵を取りに行った。今の時間では、誰も出勤していない。このまま店に行っても誰もいないのは明らかだ。  警備員に店のIDを見せて鍵を貰おうとすると、警備員は首を傾げた。 「あれえ?オタクん所の鍵ならさっき若いお兄ちゃんに渡したよ」 「え、そうなんですか」  この時間帯に出勤する若い男といえば、真しかいない。  珍しく早く出勤したことに少し違和感を覚えながら、弥生は太田書店の入る二階のフロアへ向かう。  少しだけ足が速くなっていることに気付く。  突き動かされるように足が進む。  何を期待しているのだろう。  こんな時間に休憩所に真と二人きりになれると思うと、何だか不思議な気分だった。  そういえば一昨日に体を重ねた際に真が 「お店の休憩所でキスとかしてみたいですね……」 と、言っていた。  まさか、それを実行する気なのだろうか。  でも、いつも弥生は開店十分前にしか出勤しない。今日は珍しく道が空いていたので早く来られただけだ。  それを真が知らないとは思えない。  でも、偶然とはいえシチュエーションが揃ってしまったのだ。  期待をしても仕方の無いことだろう。  唇に指を這わせると、少し乾いているのが分かる。  慌ててリップを取り出して、口に塗る。  真と休憩所で唇を重ねる―――。  想像するだけで、なおいっそう唇が潤う気がした。
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