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 十三時になり、弥生の昼休憩の番になった。  休憩室に入ると、エプロンを脱いで椅子に座った。足が少し張っている気がするので、自分で揉みながら一息付く。この後自分で持って来た弁当を食べたら、返品する雑誌を読みながら休憩時間を過ごす。  弥生だけではなく、皆がそのようにして休憩を過ごしていた。  そういえば最近の若い子は暇さえあればスマホを触って時間を過ごすと聞く。娘の美樹も入学祝いで買い与えたスマホを暇さえあれば触っている。何をしているのかは正直分からない。インターネットに繋げることが出来るのは知っているが、どんなサイトがあるのか分からない。村上や沢木はインターネットを活用しているらしく、サイトで日記を書いたりしていると言っていた。それがなんという名前なのかも弥生は知らない。別に知らなくても生きていけるし、パソコンを今から覚えるのも煩わしい。スマホも四年前に買ったものを未だに使っている。ネットにつなぐのと、メッセージアプリとカメラくらいは使うが、細かい設定などは未だに分からない。そんな弥生がスマホを触って時間を過ごす若者に疑問を抱くのは当然のことでもあった。  昼の弁当を食べ終え、山と積まれた返本の中から適当に婦人誌を見繕っていると、今日皆で読んでいた雑誌が目に入った。 『表紙破れ有』と書いたゴムバンドが張ってある。  そういえば今日の仕事中、児童書の所でこの本が見つかったと店長である結城が言っていた気がする。多分、子供を児童書の場所で遊ばせながら自分も立ち読みしていた客がそのまま置いていって、おもちゃと勘違いした小さな子が乱雑に扱って破れたのだろう。  迷惑な話だ。  最近、なんだか常識の無い客が多い。若い高校生などがそれをするのなら『若気の至り』とも思えるのだが、いい歳をした大人の常識が欠けている。  スマホで雑誌の一部を写真に取る客、雑誌の小さな傷を発見して『安くしろ』と騒ぐ客、雑誌の返品を繰り返す客……、皆良い歳をした大人だ。けれど、彼らを注意するとすぐに怒り『投書するぞ』『二度とこんな店は使わない』と言って脅してくる。  結城が以前に「もうあの人たちはお客さんじゃないよ……」とぼやいていた。  だけど、今日はその迷惑な客に少しだけ感謝をした。  表紙が破れなければこの雑誌はここには置かれなかったのだから。  弥生はその本を手に取ると、机へと向かった。
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