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 その後、洋介はずっと悶々とした気分で過ごすことになった。 「なあ、生理まだか?」  などと気軽に聞けるわけが無い。弥生はその質問に答えてくれるかもしれないが、その胸に「覚悟も無いのにつけずにしたの?」という疑問も植えつけてしまう気がしてしまい、じっと耐えることしか出来なかった。  そして、梅の花がその姿を現し始めた頃、弥生から妊娠のことを告げられた。  その時「結婚しよう」という言葉を発するとともに、自分の中で「もう、酒を呑んだらセックスはしない」という固い誓いを立てた。  それからというもの、洋介は酒を飲んだらセックスをせずに眠るようになった。  弥生もそれを洋介から直接聞いた訳ではないが、いつも行為に及ぶ前にするキスの際に唇を重ねても酒の匂いがしないから、知っていた。美樹がお腹の中に宿ったあの日以来、二人はいつも間にゴムを付けて行為に及んでいる。  手袋をしたままの握手のような感覚を続けていく内に、何だかこの行為が無駄に思えてきて、回数が減っていった。  今日の行為も、手袋はつけたまま。  もどかしい感覚を知りながらも、二人は行為に及ぶ。  それしか出来ないのを、お互いに知りながら。
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