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「おれ、後であいつに訊いたんだよ、おまえの好みの味かって。そしたらさ、全然違うって言ってたよ。それにあいつのともう一つのやつは、味が少し違ってたって」
そこまで周りを固められると言葉に詰まる――。
本当は……先日、この家に来て彼にコーヒーをもらった時、無糖でかなり苦味がきつかったが、彼は表情も変えずに飲んでいた。
それを見て、普段から苦さに慣れ親しんでいるのだろうと思った。
そして家に来る途中、萌音と一緒に、一応お見舞いにと果物をいくつか買って行ったのだが、
「まあ、おれあんま甘ったるいの苦手だし。このくらいが丁度いいな」
と言っていたのを思い出し、彼の好みの味に仕上げたのだ。
確かに、彼の嗜好に合わせて作ったことは認める。
だが絶対に成見の前で認めたくはない。
「違う。成見の勝手な思い込みだよ。だいたい彼女がいる人に、なんでチョコあげたりするのよ」
ごまかすと、
「おまえ、なんか誤解してんじゃねえの。おれ、彼女なんかいたっけ?」
とんでもないことを言い出す。
「いるじゃない。バレンタインだってもらってたし、一緒に帰ってたし、この間なんてお弁当まで届けてもらってたし」
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