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このまま帰ってもいいのだが、真羽の頭と心はすっかり混乱していた。
先ほど口づけられた瞬間、頭が真っ白になり、なにも考えられなかった。驚いたせいもあるが、なにかが違っていた。
「嫌いなの。大嫌いなの成見なんて」
半ば自分に言い聞かせるように繰り返す。
「わかったよ。もういいから、帰れよ」
成見は不機嫌そうにこちらを見ている。
「わかった。帰る」
真羽はそのまま玄関へと戻って行った。
頭はそれを指令する。それなのに足は、速度を増さない。心が勝手に行動を制御する。
――帰らなきゃ。あんなやつ、好きでもなんでもないんだから。
心に言い聞かせる。それなのに……。
――なんで、こんなに、苦しくなるの?
真羽は立ち止まり、動けなくなってしまった。
どうしていいかわからずにいると、
「なんだ? 忘れ物なら、もう、なんもねえはずだけど」
成見の低い声が廊下に響く。
最低なやつなのに、その声に身体が勝手に反応する。
――私、どうかしてる。
成見が、すぐ後ろに歩み寄って来た。
「どうした?」
先ほどとは違い、口調が穏やかだ。そんなギャップに戸惑う。
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