46億年分のふたり

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 任務外の時間は、丸の内のオフィスに出社して、普通のサラリーマンのような生活を送っている。素性をこの時代の人間に悟られないためでもある。  ここで暮らし始めて、度々思う。  不便な生活も悪くはないと。  ここの人々は文化や芸術を楽しむ心がある。  それに不遇の環境に置かれたとしても、人々が手を取り合い、助け合って生きている。  俺が生まれた時代は大部分が効率を第一に考えている思想だから、文化も芸術も無駄なものだと自然消滅してしまったものも多い。  それに多くの時間を自宅で家族と過ごすので、他人との関わりがなくなってしまった。  そして国土の三分の一は海に沈み、世界各国でも同じような現象が起こっている。  人間の手によってスピードが早められた環境の変化に逆らうことはできない。  そのために環境研究機関の人間がこちらへ来ているらしいが、人間の技術が自然の力に勝ることができるのか、正直俺には疑問だ。   こちらに来てよくわかった。  地球を救うヒーローにでも変身するような気持ちでこの仕事に就いたけど、現実は厳しい。  人間一人ができることなんてちっぽけだ。  彼女の夕貴でさえ、幸せにしてやれないんだから――。 
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