43人が本棚に入れています
本棚に追加
任務外の時間は、丸の内のオフィスに出社して、普通のサラリーマンのような生活を送っている。素性をこの時代の人間に悟られないためでもある。
ここで暮らし始めて、度々思う。
不便な生活も悪くはないと。
ここの人々は文化や芸術を楽しむ心がある。
それに不遇の環境に置かれたとしても、人々が手を取り合い、助け合って生きている。
俺が生まれた時代は大部分が効率を第一に考えている思想だから、文化も芸術も無駄なものだと自然消滅してしまったものも多い。
それに多くの時間を自宅で家族と過ごすので、他人との関わりがなくなってしまった。
そして国土の三分の一は海に沈み、世界各国でも同じような現象が起こっている。
人間の手によってスピードが早められた環境の変化に逆らうことはできない。
そのために環境研究機関の人間がこちらへ来ているらしいが、人間の技術が自然の力に勝ることができるのか、正直俺には疑問だ。
こちらに来てよくわかった。
地球を救うヒーローにでも変身するような気持ちでこの仕事に就いたけど、現実は厳しい。
人間一人ができることなんてちっぽけだ。
彼女の夕貴でさえ、幸せにしてやれないんだから――。
最初のコメントを投稿しよう!