46億年分のふたり

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 自宅へ戻ると夕貴の姿はなかった。  そうだ。今晩は夜勤だと言っていたな。  バスタブにいつもより熱めのお湯を張り、身体を一気に沈めると、湯気がもうもうと辺りに立ち上り視界を白く染める。  混沌とした心や疲れやいろいろなものが、湯船の中に溶け出していくような感覚がする。  少し速い鼓動の音が身体を伝わって耳の奥にまで届く。そのリズムに静かに目を閉じた。  頭の中にはさっきの管理官の言葉が巡る。 『 お前が大きく躍進できるいい機会だとは思うが。躊躇する理由でもあるのか 』 『 もちろん周りの記憶も消去するから大丈夫 』 『 とりあえず明日までに返事をくれるか』 『管理官として異動する、それかここに今のポジションのまま残る。あともう一つ選択肢があると言えばあるんだが――』  ぶはっ、はぁはぁはぁ――。  考えている間に意識が飛んでいた。  お湯の中で息をするのを忘れるほど。  荒い息で水蒸気にけむる風呂の天井を仰ぎ見ながら、俺の心は激しく揺れていた。  明日までに結論を出さないと――。
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