46億年分のふたり

8/12
前へ
/12ページ
次へ
 任務先の人間に深入りするのはタブーだというのが暗黙のルールだったが、俺と夕貴は必然のように出会い、必然のように惹かれた。  この地球が現れてから46億年の間の、瞬きの瞬間くらいの途方もなくわずかな確率の中から、俺たちは巡り合ったんだ。  その夕貴が、俺の隣で静かな寝息を立てる。  明日は夜勤らしいから、きっとこのまま昼まで起きることはないだろう。  彼女は看護師で勤務時間はまちまちだった。  だから数日顔を合わせないこともある。  できるだけコミュニケーションを取りたいからと、メモ程度の手紙をベッド脇にあるサイドテーブルの引き出しに入れてやり取りをしないかと、彼女が提案した。 ――行ってきます。 ――キッチンの朝ごはん食べてね。 ――いつもありがとう。 ――大好きだよ。  そんなごくごく短いもの。  この5年間で夕貴からの手紙は千を超えた。  ふふっと微笑んでしまうものも、ごめんって胸が痛むものも。思いを込めた小さな紙。  夕貴の笑顔を思い浮かべ、3行目の途中で文が途切れた小さなメモ紙を改めて見つめた。  首を振ってメモ紙をクシャクシャと丸める。  違う。  俺が伝えたいのは、別れじゃない――。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加