STEP1

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わかってはいた。  親に迷惑がかかることも相手にも失礼なことをしているのは十分に理解していた。だからこそ、二度と佐伯家の敷居を跨ぐことは出来ないという決意で家を出た。  それから二年の時を経て、同じ部署の成瀬孝太郎と付き合い結婚まで約束をした。 全てが順調だと思っていたのに。  空を見上げるが漆黒に染まるそれは今にも私を呑み込みそうだった。 じっとしていると涙が零れる。 何か別のことを考えようにもどうしたって不可能だ。孝太郎との楽しい思い出が走馬灯のように思い出される。 浮気をするような人には思えなかった。しかし、彼は否定したが結果として私と別れる決断をしたのだから…―。 「そういうこと、なんだよね…」  がくんと頭を下げるとセミロングの髪の毛が私の頬を覆う。 声を押し殺して泣いているときだった。 「こんな時間に女性一人では危ない」 男性の声が、しかも日本人の声が聞こえて顔を上げた。 正面に見知らぬ男性が立っていた。街灯の灯りだけでは細部までよく見えないが、長身のその男性は訝し気にこちらに近づく。 「あ…いえ、大丈夫です。すぐに帰りますので」 「キャリーバッグ?旅行で来ているのならホテルに宿泊ですか。ならばタクシーを呼んだ方がいい。一人では危険だ」  泣いていることを知られたくなくて顔を伏せながら大丈夫です、といった。しかしその日本人男性はしゃがみ込むと私の顔を覗き込んだ。 ビクッと肩を揺らして彼を見た。 「…」  私が今座っているベンチの真上には街灯がある。 その灯りでようやく彼の顔を見ることが出来た。 彫刻のように目鼻立ちのはっきりした眉目秀麗な男性が立っていた。 黒曜石のような瞳が私を映すと途端に体に緊張感が走る。それほどに彼の瞳が美しかった。
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