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終章 希望の未来
月子はペンを置いた。
久々の執筆は、精神を摩耗させたが、それでも清々しい気分になれた。
「ごはんできたわ、お疲れ様」
更紗の声が聞こえ、姿が見えた。
「終わったよ、脱稿」
「わぁ、おめでとう。お疲れ様」
車いすを押してもらって、食卓へ向かう。
夕餉のいい香りが鼻孔をくすぐる。
今日は豚肉のソテーに大根おろしを添えた、月子の好物のようだ。
現在、二人は一緒に暮らしている。
月子は物語を書いている。
更紗は日常の手伝いをしている。
同性なので結婚こそしていないが、こんな生活が十年以上も続けば、もう夫婦のようなものだ。
「うわ、美味しい」
「月ちゃん、これ、大好きだもんね」
頬が落ちそうな味を噛み締めながら、月子は思う。
次の物語は何にしよう。
今度は愛に溢れた、平和な物語がいい。
希望に満ちた、そんな話がいい。
心の澱を昇華した月子は朗らかに笑い、それを優しく見つめる更紗は微笑む。
明日もまた、愛に満ちた日々が送れますように。
希望に満ちた未来が、二人を待っていますように。
そんなことを、共に、祈りながら。
了
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