第五章 OVER【七宮月子】

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目障りな、愛するあの子が貴女の前から消えても、何一つ、貴女を取り巻く環境は、変わりはしなかったのでしょう? 当たり前だわ。 貴女は、貴女自身は、何ひとつ、変わってはいないのだから。 貴女は、卑怯よ。 常に外にだけ、理由を求める。 悪いのは、いつも、ダレカで、ナニカ。 決して、自らを省みようとはしない。愚かで、卑怯な人間なのよ。 私、最初は、貴女を憎んだわ。 貴女の卑怯な行いがなければ、あの子は……って。 悔しくて、悲しくて、貴女を憎んだ。 でも、気づいたの。 貴女には、憎むだけの、価値なんてない。 貴女に向き合うなんて、全く意味のないことだって。 ……いらっしゃい。 ようやく、出てらしたのね。 そこは、暑かったでしょう? 息を潜めて、苦しかったでしょう? でも、もう、大丈夫。 秘密がバレることを恐れて、隠れる必要は、なくなるわ。 だって、もうすぐ。 あと少しで、それは、秘密でもなんでもなくなる。 誰もが、知ることになるのだから。 ……知らなかった。 屋上の柵って、意外と冷たいのね。 陽に晒されているから、てっきり熱いものだとばかり思っていたわ。
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