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アーケードの商店街を抜けるころ、あたしは向こうから走ってくる長身のシルエットに気がついた。 「み、み、みずほ!」  賢悟だった。 「探したんだぞ、急に飛び出していくから」 「だって……」 「なに、勘違いしてるんだよ」 「だってだって」  急に視界が真っ白になった。鼻が潰れそうなほど何かが強く押しつけられた。 「ぐるじい」  それが、あたしを抱きしめた賢悟のシャツだと気付いて、あたしはもがいた。 「卒業旅行の行き先のことで相談されてただけだよ、ディズニーランド、瑞穂も行きたいって言ってただろ? ついでにパンフ見せてもらってただけなのに」  と賢悟は続けた。 「だって」 「だっては聞き飽きた」  どうしてあたしが怒鳴られなきゃいけないんだろう。  さっきまでの怒りが舞い戻ってきた。 「だって楽しそうだったじゃない! あたしといる時は黙ってばかりいるのに」  思い切って大声で言った。  そうなのだ、賢悟はあたしといると無口になる。  一緒にいると、いつもあたしばかりしゃべってるような気分にさせられるのだ。 「楽しいんじゃなくて、気楽なんだよ」  と賢悟。 「どういう意味よ」 「お、おれは好きなヤツの前だと緊張するんだよ!」  言ってから、カァっと赤くなる賢悟。  一拍おくれてあたしの顔まで赤くなった。 「オマエだって怒ればいいじゃねえか、他の子と一緒ってどういう事!? ぐらい問い詰めればいいじゃねえか、いつもころころよくしゃべんのに」 「嫉妬深い女なんかみっともないでしょ!」  思わず怒鳴ってから、しまった、と思った。  案の定、賢悟は目を丸くして絶句した。  それから、ゲンキンなくらい嬉しそうな顔で 「なんだ、ヤキモチ焼いてたのかよ」  とニヤニヤした。 「バカだな~」  バカとはなによ!? と言い返そうとしたけど出来なかった。  賢悟がさっきより強くあたしを抱き締めたから。 「ごめん」   囁く声が耳にくすぐったくて、包み込む賢悟の体温が心地よくて、あたしは「もう」呟きながら目を閉じた。  ふと、安堂くんの顔が脳裏に浮かんだ。  信じろよ、と言った安堂くんの言葉は、賢悟を、ということじゃなく、この恋は大丈夫、と神様から下された託宣についてだったのだ。  腑に落ちたとたん、なんだかあたしは笑いだしそうになった。  沙也加さんが保証してくれた安堂くんの恋占い。  あたしはまだ少し、甘い匂いの残る手を賢悟の大きな背中に回した。  二人の影が歩道にくっきりとのびている。  夏はまだ始まったばかりだ。
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