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「大丈夫かよ、あんた」  いきなり声が降ってきた。 「赤くなったり青くなったり、忙しいな」 「な、なんですって?」  勢いよく振り返ったあたしの前に、びよよ~んと揺らめく緑の葉っぱ。 「?」  驚いて、思わず言葉を飲み込んだ。 「気分でも悪いのか?」  よく見ると、紡錘形の葉の間から顔が覗いている。 「って、安堂くん?」  それは、同級生の安堂祥一だった。  といっても、いつ見ても寝ている姿しか思い出せない彼とは、同じ教室に籍を置いている以外に接点はまるでなく、挨拶以上のちゃんとした会話をしたことがあったかどうかさえ、怪しいぐらいだ。 「なにやってるの? こんなところで」  怒っていたのも忘れて、あたしは訊いていた。 「バイト」  簡潔に答えて、抱えている観葉植物の鉢に目をやって、 「配達の」 と付け加えた。 「重そうだね」  乳白色の陶器で出来たタマゴ型の鉢には、たっぷりと水を含んで黒々と湿った土が盛られ、尖った葉先から涼しげに水滴をしたたらせる見慣れない植物の若木が植えられていた。  それはたしかに見るからに瑞々しく、見るからに重量感があった。 「配達先、そこ」  そう言われて振り返ると、雑居ビルの入口があった。 「ごめんなさい、邪魔して」  あわてて飛び退いて道を譲る。 「押してあげる」  両手が塞がって使えない安堂くんの代わりに、あたしはエレベーターの上ボタンを押してあげた。 「サンキュ」  と、安堂くん。  鉢を抱え直して箱に乗り込むと、あたしを見た。 「え? あ、そっか」  あたしは一拍遅れて気がついた。 「階数ボタンも押せないよね」 「6階」  丸い6のボタンを押して、あたしは安堂くんの隣に並んだ。  ノロノロと速度を上げながら昇ってゆく箱の中は、意外と狭くて白々しいほど明るかった。 「植木の配達屋さん?」  黙っているのも気詰まりで、あたしは質問してみた。  安堂くんは少し考えて頭を振った。 「母方のばあちゃんがやってた花屋を閉める事になったんだ。それで、預かっていた植物や予約の入ってた花なんかを配達してる」 「お店、閉めちゃうの?」 「まあね」  さほど残念そうにも見えない表情で、安堂くんは頷いた。
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