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「賢悟のバカ、バカバカバカバカ大バカ野郎!」  足早に交差点を渡りきり、表通りから人影のまばらなビル街に入ってからあたしは声に出して呟いた。   振り返れば、よけいにみじめになるのはわかっていたから、怒りと勢いにまかせてずんずんと大股で歩いた。  どこへ向かっているのか、自分でもわからない。  正確にいえば、どこへも向かってなどいない。  このまま自分の家へ戻るのはイヤだったし、誰かに話を聞いてもらうには、まだ傷が生々しすぎる。   そう、あたしの心は流血中なのだ。    こんな時、他の人はどうやって心を鎮めるんだろう。  三か月も付き合ってたのに、「好きだ」と言ってくれたのに。  あたしよりちょっと美人で、あたしよりちょっと話上手で、あたしよりちょっとグラマーなあの子と、 「浮気してたなんて~!!」  思わずバッグを胸に抱きしめて、あたしは地団駄を踏んだ。  パンプスの踵が折れそうになったけどかまわない。  怒りにまかせてアスファルトをどかどか蹴りつけてやった。  裏切るなんて裏切られるなんて思ってもみなかった。  びっくりしてあたしを振り返った彼の焦った顔、トイレから戻ってきた彼女の不思議そうな顔。  賑やかに散らかったテーブルの上に、広げられていたのは旅行のパンフだった。  しかもディズニーランドの。 不意にあたしの怒りは失速した。  急に、その場にしゃがみ込んでしまいそうなぐらい不安になった。  なにもかも、あたしは失ってしまったんだろうか。  二人で積み重ねた日々に本当に意味はなかったんだろうか。  すくなくとも彼にとっては。
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