A.

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「はる」 私を呼ぶ声が、空気に溶けた。 寿にされたとき、瞼を下ろすこともできずに呆然としていた。でも、今森山の唇に触れられたとき、私はどうしてか、魔法にかかってしまったみたいに瞼を下ろしていた。 したいと思わなかったキスは、ノーカウント。鹿島に教わった。それならたぶん、私のファーストキスは森山が相手だ。 唇に触れた熱が音もなく離れて、ゆっくりと瞼をあげる。森山は、一番近くで私の顔を見つめていた。いつも優しい匂いがする。 「……どうっすか、キモくねぇ?」 「きも、くはないよ。普通に、なんか、なんだろう、今までになく、近い」 「そりゃそうだわ」 「くち、柔らかいですね」 真剣に言ったのに、森山は気の抜けたような笑みを浮かべて私の頭を撫でた。 「春は隙だらけだしアホ」 「ひどいな」 「マジで嫌じゃないの」 「いや、では、ない、変だけど」 「じゃあ、慣れそう?」 矢継ぎ早の質問に頷きかけて、一瞬間が開いた。口に出して言われているわけでもないのに森山の感情が流れてくるみたいで、おそるおそる顔をあげる。 「とも、実はキスしたい……?」 「できるんならしたい、と今思った」 「なる、ほど……」
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