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はっきりと口にした森山が笑っている。あんなに呆然としていたのに、人にキスをしておいて、もうすでに平静を取り戻してしまったらしい。恋愛経験者は凄い。敵わなくて、呆れてしまった。
「花村寿も一回してて、俺も一回ならまだ勝ってねえ」
「人のキスで張り合うの!?」
「キスでチャラにしようとしたのは春ちゃんじゃん」
「ええー……。でも、私の中ではともちゃんがはじめてキスした人だよ」
「……そういう技はどっから仕入れてくんだよ、アホ」
私が森山に聞きたいことを先に聞かれてしまった。苦笑しつつ、森山に頬を抓られて、口を開く。
「慣れるか、わかんない、けど……、ともがしたいと思ってくれてるのかなって気付いたら」
「……気づいたら?」
「私から、やってみます」
「……ふーん」
「ふーん?」
「いや、春が自分からやってくれんなら、それに越したことねえけど」
「じゃあ、そうする、から、よろしく」
「ん。りょーかい。待ってるわ」
森山はけらけらと笑っている。それがどれくらい先の未来にあるのか、想像して笑っているのだろうか。同じように笑みを浮かべたら、やっぱり頬を抓られた。
「可愛くてむかつくわー」
「可愛くないし、むかつかないでよ」
「春」
「うん?」
「俺も好きにして良いんだよな?」
「うん」
「じゃあ春も、もっと好き勝手言えよ?」
「はは、うん。わがまましてやる~」
「よし。じゃあ、そういうことで。……ゲームでもしようぜ」
「あはは、いいけどぉ~!」
大事な話をしたのに、結局いつも通りに戻ってしまった。森山は笑っている。いつもと同じ距離から、私を呼んだ。
「今日こそあいつ倒さねえと」
「よし、頑張る、任せて」
「おー、頼りにしてるわ。春ちゃんセンセーいねえと倒せねえんだよ」
ねえ、私が邪魔じゃない理由を教えようとしてくれてるのかな。智。
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