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「……でもね、真野さん、それから一週間後に手紙を送ってくれてね。それから毎月、春のことを書いて送ってくれていたの。お仕事をどんなふうに頑張っているか、どんなことに落ち込んでいたか。真野さんねえ、とってもマメな人で、手紙を読んでいるだけでおかしいのよ。そのうちお父さんも手紙を読みたいって言いだしてね、春に負担をかけたくないから黙っていたけど、お父さん、本当に春が家を出たことを気にしていたの。だから、勝手だけど、春のことが知れて、本当によかった」
真野さんは、仕事の合間にメモ紙に何かを書きつけていることがよくあった。
あれは、私の行動を見て忘れないようにとメモに残していたのかもしれない。今更気付かされてしまった。
言葉が出ない。
真野さんは、何も言わずにずっと私の心を守ってくれていた。それだけではなく、母と私の家族のことも、大切にしようとしてくれていた。
真野さんがマメな人だなんて、嘘だ。
いつも大雑把な仕事を発注して私を困らせているのに。
だから、きっと真野さんは、無理をして私のことを母に伝えてくれていたのだろう。仕事の邪魔をして遊んでもらっていただけの私のことを娘と言って大切にしてくれた。何も言わずに、見守ってくれていた。
『――もうずっとここにいたらいい。ここが春ちゃんの家だと思えばいい』
胸が詰まって、息が苦しい。優しさに泣き出してしまいそうだった。
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