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「楽しく頑張ってること、春から聞けて良かったわ。大切な人が見つかったことも、良かった。私の気に入るような人じゃないかもしれないのは、とっても心配だけど。でも、その人が大切なのだものね」
「……うん」
「どんな人か、聞いても良い?」
母の声に、森山の数々の言葉が頭に浮かんでくる。優しくて、強い人だ。我慢強くて、でもたまに突拍子のないことを言って驚かせて来る人。
「森山智和くん、だよ」
母の記憶には残っているだろうか。
中学三年生の冬に、私のために鹿島を殴った人だ。
私がその名前を呼んだら、母は目を丸くして、言葉を無くしてしまった。真野さんは私のプライバシーに触れる部分は決して手紙に書かなかったのだろう。それならば、私から言うしかない。
「……一緒に住んでる」
「えええ。えええ? ……そうなの?」
「うん」
「森山くんって、あの、中学の時の、」
「うん。同級生の森山くん」
「……そう」
私の肯定に、母はたっぷりと間を置いて、小さく頷いた。言いたいことはあるだろうに、言葉を飲み込んでいる。私の話を聞くためにそうしている。母は真野さんの言葉を、真摯に受け止めようとしているのだろう。
「もう、三年、住んでいま、す」
「……三年」
「ごめんなさい、言わなくて」
「……それはたしかに、言ってほしかった、けど。……じゃあ、三年ずっと、森山くんと住んでいたのに、見合いに来てくれていたの?」
「……うん」
頷けば、母は小さくため息を吐いて、座椅子の背にもたれ掛かった。
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