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「お父さん、怒るの?」
「そりゃあそうよ。可愛い娘がどこぞの知らない男と暮らしてるなんて、許せないでしょう。お父さん、堅いお家の人だもの。同棲するなら結婚しなさいって言ってくると思うし、挨拶にもこないで! って怒るだろうね」
「えええ、いやだ。そんなつもりじゃないのに」
「あの人はまだ、春が自分の心をどう思っているのか、聞いたことがないから。だから、結婚して、家庭に入ってほしいって、強く思っているんだと思う。ごめんね。お母さんがちゃんと説明するべきだった」
「人を好きにならないって言ったら、わかってくれるかな」
「……時間がかかる、かもしれない」
「えええ、その前に森山くん、怒られちゃいそうだよ」
焦って自分の身体を抱きしめたら、母はどうしてか、おかしそうに笑っていた。
「結婚、は考えてないの?」
あくまでも、問いかけただけだとわかる言葉だった。せかすわけでも、それを母が望んでいるわけでもない。ただ、私がどう考えているのか知りたいがために投げかけられた言葉だった。
「……そういうものは、わからないし、恋人同士みたいな愛があるわけじゃない、と思うから」
この心をどう表現できるだろうか。母は私の言葉に、「そうなのね」と言った。
「春」
「うん?」
「春は昔から、こうなんじゃないかってたくさん考えて、答えが見えたら、その道しか信じなくなるところがあると思うの。……でもね、お母さん、思うんだけど、物事には、白と黒じゃない部分がたくさんあるでしょう? こっちなのか、それともあっちなのか、どっちつかずのものがたくさん落ちているじゃない? それを一つひとつ、正しく並べるのはとても難しい」
「……う、ん?」
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