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森山へも特別な性愛など生まれなかったのに? とは聞くことができずに曖昧に微笑む。
言葉遊びのようなやり取りだ。
見合いのたびに同じことを思っている。女性として私に好意を抱く相手との会話はほとんど平行線だ。無駄だと理解していたから、今まで、この本心を口にしたこともなかった。
彼は私の内心など知らずに、たっぷりと自信の滲む笑みを浮かべて口を開く。
「単刀直入に、話します。僕はあなたに好意を抱いています。愛したことがないというのなら、ますます好都合です。僕を好きになってもらう努力は惜しみません」
「どれだけの時間があっても、変わらないなら、どうですか」
意地の悪い言い方になったのは、この人が、私の言葉を受け入れているような言い方をしながら、本質的には全く取り合っていないことに気付いたからなのかもしれない。私の言葉に、男は僅かに眉を顰める。
反論されるとは、思ってもいなかったのかもしれない。
「そんなに寿さんが、忘れられませんか」
それが悪意ある言葉だったのか、それとも単純な疑問の声だったのか、よくわからない。
温厚そうな人だと思ったのは、間違いだった。私への好意が彼にこんな言葉を言わせたのなら、やはり愛は狂っている。
何も言えずに、男の顔を見つめていた。どうしてこんなことを言われたのか、理解ができなかった。
私は人を愛せないと素直に打ち明けた。しかし彼はそう思わなかった。彼は私が兄を愛したことを知っている。
彼の世界の中では、それが常識だ。
「忘れられなくとも、僕は構いません。兄を愛していたとしても、そういうあなたごと、僕はあなたを愛したいです」
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