2919人が本棚に入れています
本棚に追加
鹿島は私が声を上げるよりも先に、着物が着崩れてしまうことも気にせず大股でこちらへ走ってきて、男の胸倉を掴んだ。
目の前で起こる光景があまりにも信じがたくて、言葉が出ない。
「クソモブ野郎、私に押し倒してもらえるんだから感謝しなさいよ、クソが」
「ひ、……っ、なっ……っ」
私と同じように引きつった声を上げた男が、鹿島に押されるまま地面に尻もちをつく。鹿島はその上に乗り上げて、叫んだ。
「春に勝手に触ってんじゃねえぞクソ。ああ? 断られたら潔く引けや。きめえんだよ」
「ひ、……っ!?」
「しゃあねえから私が春の代わりに押し倒してやってんだよ、光栄に思えや」
美人から繰り出される言葉に、男は吃驚して目を見開いている。今にも殴り掛かりそうな勢いの鹿島に近づこうと足を踏み出しかけて、今度は違う人に、優しく肩に触れられた。
「と、とも、」
「――攫って良し?」
「は、い?」
「春も好きに生きんなら、俺も好きにしていいんだろ?」
俺も好きにする、と、森山は言った。本当に今更そのことを思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!