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森山と話すとき、いつも過去が追いかけてくるような感覚に襲われる。自分の過去が背中を蹴ってくるような、不可思議な感覚がある。
彼がどれだけ私との過去を大切にしているのか、話をしているだけで理解できるから、そのように感じるのかもしれない。
森山はいつも私のヒーローであろうとする。それは一般的な正しさとか善良さだとか、そういうものを無視して、私のためだけに振るわれる力だ。
たとえその力が、常識的にも、倫理的にも誤った行動であったとしても、その力で、誰かが救われてしまう瞬間があってもいい。そう思う。――実のところ、私は大人になれなかった。
「謝らないでよ、ばか。……本当にびっくりしたんだよ」
「はは、だろーな」
「ばか」
「うーす」
正しい大人なら、たくさんの手がかけられている縁談の席を壊そうとした森山達を、諫めたり、怒ったりするのかもしれない。でも、どうしてか私は、そんな気分には、なれない。
「……でも、助けてくれて、ありがと」
ぽつりと呟きながら、でろでろに笑う森山の頬を抓って、ぐにょっと伸ばした。変な顔になる森山がおかしくて、つい状況も忘れて笑ってしまう。
「なに、俺の顔で遊んでんの。お仕置き?」
「んーん。もちもちしててむかつくの」
「むかついてんのかよ」
「ふふ。そう」
正しいものになろうとしていた。誰にも偏見されない何かを探していた。けれど、どう生きようにも、知らない誰かは勝手な眼鏡で私を見て、見た通りの評価をする。それが避けられないなら、もう、やっぱり好きに生きて良い。
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