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無性に腹立たしいのは、助けるつもりで、追い詰めている自分に気付いたからだ。
「やっぱ! 好きな人できないでください!」
「ええっ!?」
「できなくていいっす! 俺と遊んでてください」
間違えた、と謝ることはできなかった。
傷つけたと思うのも俺の勝手で、恋愛ができないことを哀れに思うのも他人の勝手だ。言葉にできずに、馬鹿っぽく振る舞った。
「じゃあ、好きな人、できなくてもいっか」
安心したように笑う春さんを見て、心底ほっとした。
もう二度と傷つけたくない。
春さんと居るのが心地いいのは、春さん自身がたくさん傷ついて、相手を傷つけないように細心の注意を払っているからだ。だから俺は、楽しくへらへらして隣に座っていられる。
「いいっすよ、じいちゃんとばあちゃんになるまで、一緒にアイス食ってましょう」
「あはは、ともちゃんに怒られちゃいそうだなあ。アキオ取るな~って」
それを言われるのはたぶん俺の方だ。だがきっと、智先輩はもう一生そんな言葉は口にしない。
どうして二人が付き合わないのか、唐突に理解してしまった。
智先輩は春さんの心を知っている。だから、そういう話を避けている。好きなものを好きだと言えない世界はどれだけつらいだろう。だがそれと同時に、大切にしているものに愛を返せない生き方も、きっと想像できないほどにつらい。
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