番外編/名前は知らない

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それがどんな間柄なのかなんて、俺も名前は知らないよ。 どうせ、俺の頭ん中にある言葉で現せる関係性なんて、クソみたいな偏見だ。俺の知ってる言葉なんて、意味を持たない。誰も救わない。 だから、そういう言葉に当てはめようとするのはもうやめた。 「章生くんはうちの家族みたいなものだし、やっぱりお茶碗は必要じゃない?」 「ペット枠だろ」 「ペット!? ちょっと待ってください。俺は人間っすよ」 「ふふ、章生くんの言うことはいつも面白い。なんか絶対笑っちゃう」 楽しそうな春さんの声に、一瞬言葉が絡まった。 「何か笑っちゃってますか?」 「うん。いっつも笑ってるよぉ。元気になっちゃうよね。一家に一人、ほしいなあ」 気軽なギャグみたいな言葉で、春さんは言った。俺の言葉なんて誰も救わない、と思うけど。 「一家に一人は多いわ」 「いやまって、今の俺の感動! 智先輩塗り替えないでください」 「春ちゃん、まだ飯残ってる?」 「あ、うん、たくさんあるよ」 「じゃあ食っちゃお~」 「無視!?」 なんとなく、俺の言葉が二人の笑顔を増やすような存在だったなら、十分俺が救われる気がする。だからまあ、お節介にならない程度に、今後も好き勝手させてもらおう。 名前は知らない (完)
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