もう少し、あと少しだけ

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 三田村から渡されたフォークとナイフを左右の手に持つ。   トーストした食パン二枚の上に目玉焼きが乗っているので、そのまま齧るというより、フォークとナイフを使った方が食べやすいという事なのだろう。朝から箸以外を使って食べるのは珍しい。  クロックマダムの真ん中に切れ目を入れると、半熟の黄身がとろりと溢れ出た。切る前から断面で見えていたが、中にはチーズとハムが挟まれている。  四等分に切ってフォークを差す。  ぱくりと口に入れて、味付けがチーズやバターだけでない事を知る。 「美味いな、これ……」 「休みの日にまた作るよ、ホワイトソース、市販のでも良かったけど簡単なやつならそんなに手間じゃないし」 「ホワイトソースか、何か間がそんな感じの味した……」  三田村はまだやる事があるからか、正面の椅子には座らずオレの隣に立っている。  小皿にはブロッコリーと海老とゆで卵のサラダ。これはたまに出て来る、あまりブロッコリーって好きじゃなかったけど三田村がよく出してくるので慣れてしまい、好きって訳でもないけど普通に食べられるようになった野菜だ。  何か本当にカフェにでも来ている気分。  いつもの朝はもっと慌ただしいけど、今日は三田村が早めに起きていてくれたからか、余裕があるような気がする。  あと、こいつが無駄にイケメンだから。だってカフェ店員みたいな感じに見えなくもない、黒シャツだからか? 「どした?」  無言で三田村の顔を見上げていたからだろう、にこりと笑顔を作り首を傾げられた。 「ほんとに、なんか、カフェみたいだなって」 「そう?じゃあ、ソウズキッチン」 「うーん……」 「語感がよくないな、三田村ズキッチンか」 「それ、お前の家の台所みたいだな……」 「まぁ、間違っちゃいないけど……でも、香川専用のね」 「……うん」  めちゃくちゃ嬉しそうに笑いながら言う三田村を何となく見ていられなくて、またパンを口に運ぶ。美味しい。頬が熱いのは温かい食事のせいだ。  最後の一かけを口に入れた所で三田村が動いた。 「あとね、これ」 「?」  三田村は冷蔵庫の扉を開け、何かを取り出したようだ。 「デザート」 「デザート?」 「朝のデザート、って感じのやつだけど」 「?!」 「ただのフルーツヨーグルトなんだけどね」  食べ終わったパンの皿を退かして、代わりに置かれたのは確かにフルーツが入ったヨーグルトのガラス皿だ。  だけど、ただの、と付けるのには少々……なんていうか……朝のデザートって言ってたけど、確かにカフェとかで出してそう……かもだけど。 「なんか、すごいな」 「インスタに載ってたの真似しただけだよ」 「……あぁインスタ……」  確かにインスタに載ってそう……(やってないから知らんけど)  中央にバラの花のような形に並べられたのはキウイフルーツだろう、その回りにヨーグルトを流しいれただけというもの。と言ってしまえばそれだけだが、薄く均等に切られたキウイは見事に丸いバラのような形に真ん中から綺麗に並べられていて、食べるのが勿体無い。  インスタ映えしそうとインスタやってないオレでも分かる、キウイの並べ方だけなのに、こんなにも変わるのかとちょっと驚いてしまう。
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