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「なんか、かわいいな~って思って、お前はあんま興味ないかもだけど」
「……興味ない、というか……オレに出してくるの勿体無くない?」
「そう?」
「料理って見た目大事だと思うし……カフェに行ったりはそんなに興味ないけど、家でこういうの出てきたらちょっとテンション上がる……」
「そう?」
「うん」
キウイの甘味とヨーグルトの酸味のバランスが丁度良い、勿体無いなんて思ってたけど美味しくてあっとい間に完食してしまった。
多分これ高いキウイフルーツだ。今まで食べて来たものと甘味が全然違って美味しかった。
「はぁ、ごちそうさま、朝からお腹いっぱい……」
「ちょっと量多かったかな、ごめんな」
「平気平気、昼前にお腹空きすぎる方が嫌だし」
「そっか、それならよかった」
いつも正面なのに、今日は見上げてばかりだ。三田村は給仕のつもりだったのか、ずっと隣に立っていた。
こいつはオレが食べている所を見るのが趣味みたいなものなので、今朝もじっと見つめられていて、それがいつもと違う角度だったからか変な感じだ。
「オレ、歯磨いてくる」
「うん」
あと10分程で出掛けなくては。
いつもよりゆったりと時間が流れているからか、もう少しゆっくり、まったりしていたいなんて思ってしまう。
歯磨きをして戻ってくれば、ダイニングテーブルの上には弁当の入った保冷バッグが置かれていた。それはいつも二つ、色ちがいのバッグが置いてあるのだが今日は一つだけ。
三田村はリビングに置いてあるソファーに座っていた。テレビでも見るつもりなのか、朝のニュース番組が流れていた。
「香川」
呼ばれたのでオレは素直に三田村の隣に座った。
「今日、いつもと違う事出来てちょっといいなって思った」
「休みだから?」
「うん」
座ると、曲がっていたのか、ネクタイを直された。
「……香川」
呼ぶなり顔を近付けてくるので、反射的に目を瞑ってしまい、頭の中で朝だけど?って突っ込む。でも危惧したような事態にはならず、触れるだけのキスは直ぐに終わった。
「いつも出来ないじゃん」
「……?」
「いってらっしゃいのチュー」
「……は?」
「だって、いつも朝一緒に出るじゃん、だからしてないだろ?」
「え?したかったの?」
「オレはいつでもお前とチューしたいよ」
「……」
「チュー以外もしたいけど」
長い腕に絡め取られる。背中に回った手が優しく背中を往復していく。
「……はぁ、一緒に出る時はあんま思わないけど、一人だとやっぱりもっと一緒にいたいって思っちゃうなぁ……」
段階的に力が込められ、離したくないという三田村の強い意思を感じる。
「……のんびりしろよ、朝から動いたんだし……」
「のんびりはするけど……お前とのんびりしたかったじゃん」
それは昨日しただろ、オレだって休みならのんびりしたい。
「仕事行くの香川なのにごめん」
「……オレも休めなくてごめん……」
ぽんぽんと背中を二度と叩かれる。いいよ、って言っているみたいだ。
「香川」
「もう、行かないと」
「まだ五分位あるじゃん」
「五分もないよ、せいぜい三分」
「じゃあ、あと三分チューしよ」
「……やだよ」
「もう少し……あと少しだけ一緒にいよ?」
「……うん」
ニュース番組の時刻表示を見ながら、オレは三田村に体重を預けた。
「残業ある?」
「ないと思う、早めに帰ってくるから……」
「うん、あ、迎えに行っちゃおうかな、買い物ついでに」
「駅まで?」
「うん、電車乗ったら連絡して」
「わかった」
耳元で三田村が笑った気配がする。
テレビ画面に表示された時刻が早く立ち上がれと言っている。三田村は気付いてないのか、気付いていて離す気がないのか。
「香川」
でも三田村が言ったように。
あと、もう少しだけ。
バス停まで走ればいいか、そんな事を思いながら三田村からのキスを受けた。
完
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