もう少し、あと少しだけ

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「おはよ、今日パンでいいか?」 「ふぁよぉ……ん、いいよ」 「顔洗ってきちゃえよ」 「ん」  欠伸を噛みしめる。  朝起きた時いなかったからキッチンだとは思っていたけど、三田村は黒シャツを腕まくりしてフライパンで何かを炒めていた。  休みなんだから寝ていればいいのに。出かかった台詞を引っ込め、オレは洗面所へ向かった。  今日は平日ではあるが三田村は有休を取っているので休みだ。一緒に休まないかって言われたけど、今日は同じ部署で休みを取っている人がいたのでオレは休めなかった。  明日が祝日で、土日を絡めると4連休になるからだろう、別の部署でも有休を取っている人が多いみたいな事を聞いた。  今は紅葉シーズンなので旅行に行く人も多いそうだ。因みに同じ部署の先輩は家族旅行と言っていた。  あ、もしかして旅行行きたいとか思っていたのかな……?  そういえば二人で旅行とか行った事、ないな。  三田村とは今でこそ恋人という関係で同棲までしているが、元々は大学の同級生だ。たまたま同じアパートの隣の部屋で、たまに三田村が夕飯作ってくれて、社会人になってからは弁当も作ってくれるようになって、何か告白っていうかプロポーズされて……それで、恋人になって同棲して。年が明ければ一緒に住み初めて一年が経つ。  だけど知り合って七年、恋人としてより友達として過ごしてきた方が長いからなのか未だ友達みたいに接してしまう。確かに恋人なんだけど、気持ちは友達とでも言うか。  それはこれからも変わらないような気がする。  顔を洗ってリビングに入ればパンの焼けた香ばしい香りがした。 「弁当はご飯入れたから」  三田村は弁当箱におかずらしき物を詰めながら顔を上げた。 「ん、そっか」  という事はご飯も炊いたのか。  リビングとダイニングが合わさった空間、というかキッチンも仕切りがないのでこの部屋は11畳と広い。  キッチンは独立型のアイランドキッチン。そのすぐ傍に二人掛けのダイニングテーブル。リビング側のベランダへ出られるガラス戸からは朝陽が入り、部屋全体を明るくしていた。  築30年という物件だが、リノベーションしてあるので内装はとてもきれいで清潔的だ。リノベーションの際に間取りも変えたらしく、二部屋あった所を壁をなくし広い一間にしたらしい。  広いリビングダイニング、IH式の3口コンロのアイランドキッチン。間取りは2LDK。だが、築年数と駅から若干遠いという事もあり周辺の家賃と比べると安い。都内でも区外と言う事もあるのかも知れないけど。 「何かおしゃれなの出て来たな」 「クロックマダム、だよ」 「……?」 「食べた事ない?」 「……何か、聞いた事あるような……?クロックなんとかって……」 「クロックムッシュかな、そっちの方がカフェとかでも見るかもね」 「……違うのか?」 「んー、目玉焼きがあるかないか、かなぁ」 「ふーん……」  テーブルの上には三田村の言うように目玉焼きが乗ったトーストが皿に乗っていた。 「はい、今日は朝カフェぽくね~」 「……ホント、そんな感じだな」 「いやだった?」 「そんな事ない、何か朝から……」 「ん?」  カフェオレの入ったマグカップを置きながら、三田村は横から顔を覗き込んでくる。 「……お前休みなのに……」 「休みだからだよ」  優しく微笑んでまたキッチンへと戻る。  テーブルの上にはクロックマダム以外にもサラダとジャーマンポテトが小皿で置いてある。  休みなんだから寝てていいのに。結局それは言えなくて「いただいます」と口に出して食べ始めた。     
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