2052年の減衰効果 8

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「あれ2007年のプレスだべ。よく残ってたなや」 「整備してくれる人がいるので」  七太の祖父は物置から半キャップを出して俺から鍵を受け取った。彼はプレスカブに跨りながら「キック始動なんて最近見ないっちゃ」と言い右側のペダルを踏んだ。ライトが光りエンジンが唸り始めた。 「俺も昔はいろいろ乗ってたんだっちゃ。カブはバイトで乗った。最後はホーネットとズーマー持ってたんだけっども津波で流されてや」 「もう乗らないんですか」 「今のはおもしぇぐね」 「そうですか」  それから七太の祖父は家の周辺を何周か走り「日和大橋さ行ってくる。すぐ戻ってくっちゃ」と言ってうきうきした様子でいなくなった。仕方がないので庭の花を眺めながら待っていると数十分で戻ってきた。リアキャリアに発泡スチロールの箱を積んでいた。 「デンジ君これ祭りで売ってきてけろ」 「え」  「みりん干し。友達から預かったんだっちゃ。川開きさ行けば売れっぺし」  発泡スチロールの箱を開けるとビニールで密閉されて薄くなったサンマのみりん干しが入っていた。祭り向けの商品ではない気がする。売れるのか、これ。七太の祖父は俺にお釣り用の大量の小銭を預けると半キャップを脱いで家に入って行った。俺はみりん干しを数えてから眠くならないよう薬を飲んでプレスカブに跨った。
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