おかあさん

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麻衣(まい)も食べる?」 母がにっこりとこちらを見る。 「う~ん、‥‥‥いい」 「ね? 少しだけ」 そう言って、母はいつもちょっとだけ、私のお皿に何か新しいものを()せてくれた。 それはごちそうに見えないおかずだったり、可愛くない色のお菓子だったり。 でもなぜか母が(すす)めてくれるものは、必ず美味しいのだった。 「もう少し食べる?」 けっこう嫌がった手前、かっこう悪くて言い出せない私に、 母はまたにっこりと聞いてくる。 「もう少しだけ‥‥‥ちょうだい」 ぽそりと言った私に母は、今度は大きく切ったお菓子を載せてくれた。 「おかあさん。少し食べる?」 「まま。ばぁばたべる? ぼくもあげる~」 「少しだけね」 「ばぁばどうじょ」 小さな息子は、おやつのかけらを母にむかって差し出した。 「きやい?」 「ううん。ばぁばおいしいおいしいって言ってるよ」 飽きたのか、息子は首をかしげ、とてとてと部屋を出ていく。 私もすぐに立ち上がった。 お気に入りのブーブを取りに行くのだな。 お母さん。私ね、 小さい時、お母さんはほんとは魔法使いなんじゃないかって、 ちょっとどきどきしたことがあったの。 もしも誰かに知られちゃって、おかあさんが(つか)まったちゃったらどうしようって。 初めて食べたのに美味しかったお菓子。 初めて食べて、大好きになったおかず。 お誕生日に買ってきてくれた、青いレースのワンピース。 「麻衣はこれ、きっと好きだと思って」 何にも言っていないのに。 私が驚いて喜ぶと、いつもとっても嬉しそうだったよね。 そのうち私も大きくなって、だんだんお母さんの選ぶものがピンと来ないようになっちゃった。 「買ってくるならお金でちょうだい」 って言ったかな。 少し‥‥‥ごめんね。 魔法ね、私もちょっとだけ使えるようになったよ。 青いブーブで遊び始めた息子のそばに座りながら、 私は今日もにっこりと、 母の写真に微笑みかける。
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