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横井は俺のことを「冷静」と言ったけれど……冷静ではなく、冷めてるんだ。
人の気持ちはとても移ろいやすくて、簡単に変わってしまうものだ。
両親は、愛し合って結婚して子供を設けたにもかかわらずあっけなく別れてしまったし、これまで俺に言い寄って来た女の子たちもあんなに熱心に想いを押し付けて来たくせに、最後は「大っ嫌い!」と平気で残酷な言葉を投げつけられた。
だから、俺が彩に対して抱いている気持ちも、会えなくなれば自然と消えていくだろうと思っていた。
それなのにどうしてだろう。
俺の送別会の日、急に名残惜しくなってしまった俺の胸の内を見透かしたのか、横井が酔いつぶれた成田を抱えながら言ったのだ。
「俺がこいつ送っていくから、おまえは鶴田のとこ行けよ」
横井はいいヤツすぎる。
あの子には、こういう真っすぐな男が似合っている。
そう思いながらも、本社ビルに向かって駆け出していた。
営業部のフロアに入ると、なぜか背中を丸めてふにゃふにゃになりながらキーボードを打つ彩がいて、そんな姿も可愛いと思ってしまう自分の未練にも気づいてしまった。
今更なのに、もしかしたら「好きでした」って言ってくれるんじゃないかと妙な期待をして、もしもそう言ってくれたら秘密をバラして待っていてくれないかと言ってしまおうかという衝動にかられた。
でも彼女の口からは「結婚してお父さんになろうとしている人」という言葉が飛び出して、もうそういう目でしか見られていないのだと痛感した。
表向きはそういうことになっているのだから彩の言っていることは正しい。
身勝手なことを考えていた自分が情けなくなった。
きっとこの子はすぐにでも横井と恋人同士になるだろう。
彩の幸せをそっと願いながら、優香さんと共に札幌へと旅立ったのだった。
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