会社の行方

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「入籍もしていなかったんだ、本当は」  ええっ!それってつまり…。 「バツイチでもないってこと?」 「うん」  驚くわたしの隣で、和樹さんは気まずそうに笑っている。  今まで、和樹さんのデキ婚とか、離婚とか、子供とか、さんざん悩まされてきたのは一体何だったの!?  目が回りそうになるわたしを、和樹さんが「彩ちゃん、大丈夫?」と心配してそっと抱き寄せた。  新しい情報が多すぎて処理しきれずに頭の中が大渋滞を起こしている。  ここはひとつ、現実逃避でもしてみようか。 「普通、偽装結婚って、途中からお互い好きになっちゃうのがお約束のパターンじゃないの?」  ふと思い浮かんだことがそのまま口をついて出た。  すると和樹さんは一瞬ポカンとした後、肩を震わせて笑い始めた。 「彩ちゃん、それマンガの読みすぎ」 「え!そう?」 「正直に言うと、最初はそうなる可能性もあるかもしれないって思っていたけど、優香さんは他の男の子供を身籠っていたし、お互いに全然そういう雰囲気にはならなかったよ。たまに未練がましく彩ちゃんのことを思い出して、今頃横井と付き合っているのかなって思ってた」  自嘲気味にそう言った和樹さんは、わたしを抱きしめていた腕を解いて姿勢を正すと、スッと真面目な顔になった。 「彩ちゃんのことだけを、ずっと好きだったんだ。だから今こうしていられるのが夢なんじゃないかって思う。都合のいいことばっかり言ってるかもしれないけど、これからは隠し事はしないって誓うよ」  ずっと好きだった――和樹さんはこれまでにも事あるごとにそう言っていた。  他の人と結婚してたくせに!と思っていたのだけれど、ようやく納得できた。  それと同時に、何でこの人はこうも強引で滅茶苦茶なんだろうかと少し呆れてしまう。 「もうっ、和樹さんはズルい!なんか、凄くズルいっ!」  それでもそんなこの人のことが好きなんだからどうしようもない。 「わたし凄く悩んでたんだからね」 「うん、知ってる。ごめんね」  優しいキスが降って来た。  この夜、わたしたちはいつも以上にぴったり寄り添って眠った。  お互い何の隠し事もなく、ようやくひとつになれた気がした。
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