2253人が本棚に入れています
本棚に追加
/146ページ
三年前
わたし、鶴田彩が務める「株式会社メルト」は、婦人服ブランド「メルスイート」と子供服ブランド「メルベイビー」の製造・販売をしているアパレルメーカーだ。
配属先の第一希望は、ショップでの販売員と記入していた。
インターンシップで実際にメルスイートの商品を着用しながら店舗で接客した経験がとても楽しかったし、服の着心地がとてもよくて、すっかりメルスイートファンになったからだった。
ターゲットを若年層に絞り流行をいち早く取り入れて安価で販売するファストファッションとは一線を画す、メルスイートの「トレンドは意識しつつベーシックなスタイル」「長期的な着心地の良さ」「良い物を長く大事に着続けてほしい」という姿勢も、わたしのちょっと引っ込み思案でのんびりしている性格にぴったり合っている気がして、わたしは自社製品をとても愛している。
新人研修の最後に配属希望をとるアンケートがあり、第一希望は「ショップの販売員」、第二希望は「営業部」で提出した。
研修中に初めて知ったのだけれど、本社営業部に配属される社員は「絶対に顔で選んでいる」と噂されるほど美男美女揃いらしい。
「それを知らない新人なんて、うちの会社に興味がないか頭がおかしいって思われるわよ?だから希望に営業部は絶対に入れておかないとダメよっ!」
今振り返ると、なんであんな説得力のない言葉にまんまと乗せられたんだろうかと首を傾げてしまうのだけれど、新人研修で知り合った同期の水嶋寧々にそうそそのかされて第二希望を営業部にしたのだった。
どうせ研修で様々な適性を見られて試されているのだろうし、本人の希望通りになるはずもないと思っていた。
それなのに!
驚いたことに、わたしの配属先は営業部だった。
最初のコメントを投稿しよう!