ホワット・イズ・ヒューマン?

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釘尾が駆けつけると、そこでは大捕物が繰り広げられていた。 ヨタヨタと走る黒づくめの男を町人たちが追いかける。黒づくめの男はそんなに悪いことをしたというのだろうか? 「あ、あぶねえ」 彼らが振り回すこん棒が群衆のなかにいた女の頭部にぶつかりそうになる。それを釘尾は無意識にガードする。 釘尾の石頭からもさすがに少量の血が流れる。 そしてアドレナリンが沸騰する。 「お前ら!事情はよく分からんがやめたまえ」 そして、釘尾は黒づくめの男を追い回す町人を4人ほど怪力でなぎ倒した。 釘尾は普段はひねくれてインテリ風を吹かせている釘尾だが、田舎では素手で猪やスズメバチや川魚を捕まえて村人にたんぱく源として分けあたえていたのである。 色生という名若い町人がヨタヨタしながら、釘尾を睨み付けた。 「おい、そこの見慣れない顔のあんたよ。なんで俺たちが悪者みたいに言ってくれてんだ?」 「だって、あの黒づくめの男が1人に対して君たちは数人がかりで追い立てていたじゃないか?事情はどうあれよくないと思うが。いったいなにがあったのかね」 「何言ってるんだ?そいつは人間じゃねえ。よく見てみろ」 「人間、人間、人間。なぜ君たち俗人は、いとも簡単に人間と人非非みたいな区分けを作りたがるやのか?森羅万象の巨大なるまなざしから見たらみんな平等にちっぽけな存在ではないか」 「うるせー!こいつをよく見ろ!」 色生は黒づくめの男が被っていた頭巾を強引に剥ぎ取った。 するとどうだ?群衆の眼前に現れたのは、人間に似て人間とは違う外見を持った者だった。 愚かな群衆は悲鳴を上げる。 「半魚人?」 そう、町人に追いかけられていたのは、人に似た形をしながら、表面を魚の鱗で覆われ、頭頂にヒレをつけた半魚人だったのだ。 「そいつは人間じゃねえ。あるいは人間だったかもしれねえが、なんかの病気かもしれねえ。そんなのは殴り殺すしかないんだ!」 ヒステリックに叫ぶ色生を釘尾はさめた目で見た。 「おいおい待てよ。こいつは確かに生物学上は人間じゃないかもしれないが、なんか悪さでもしたのか?」 「別に悪さはしてない。でもいきなり浜辺に現れてみんなを怖がらせた!」 「はあ、さしずめこの半魚人はたまたま迷子になったみてえだ。俺のふるさとじゃ蛇が来ようが、熊が来ようがよほどのことがない限りむやみに殺したりしなかったがな。あんたらのほうがよほど人の血が通ってないように見えるぜ」 「なんだと!貴様も警察に逮捕してもらうぞ」 「なにが警察だよ。無実のおいらを逮捕できるもんならやってみろよ」 釘尾の挑発に乗った町人たちが、攻撃的に威圧してくる。 「わあったーた。わったよ。お前らよく聞け。俺が責任を持ってこの半魚人を海に返してくるから、君たちは元の生活に戻りたまえ」 「絶対だな」 「ああ、絶対だ。ついでに俺もお前らとは2度と関わらない。人間なんてこりごりだぜ」 釘尾は半魚人についてくるように合図してみた。 半魚人は素直に釘尾にしたがった。これが熊や野犬なら人間に追い詰められようが反撃に転じる可能性もあろうが、この半魚人はやられっぱなしだった。 よほど気の小さな半魚人なのだろう。 すたすたと歩き出す釘尾の背中に声をかける者があった。 先ほど釘尾がかばった女だった。 「あんた。さっきはありがとう。まあ私1人でもあれぐらいガードできたんだけど。ま、とりあえずありがとう」 女はすごい武器を取り出して釘尾に見せつけようとしたが、釘尾は取り合わなかった。 「女だろうとなんだろうと人間は相手にせんよ」 「ああ、ちょっと待ってよ。あんたも旅の者だろう?あたいミミって言うんだ。おーい」 夕陽が町を染めはじめていた。
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