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人っ気のない浜は、好ましい侘しさをたたえていた。
「さ、君。愚かな人間どもにやられないよう帰るんだ」
「キュウ」
半魚人はゆっくりゆっくり海に帰っていった。
「さあて、今日は野宿か」
釘尾は、ちょうどよさげな洞穴を見つけると、そこを寝床とした。
夜、釣り上げた魚を焼いていると、いよいよ浮世離れしてきたなという気分になってきた。
「新しい物語の始まりじゃ」
釘尾は星を数えたのち眠りについた。
「おっはよー!」
「なんだ?うるせー」
けたたましい声に目を覚ますと、そこには昨日の女がいた。たしか名前はミミ。すごい武器を持った旅人だ。
「なんだお前は?なんだお前は?」
「だから、私はミミって言ってるでしょう。それよか博士が君に会いたがってるんだ。だからわざわざ探したんだよ」
釘尾はミミを無視して朝ごはんの支度をした。
「おれはもう人間じゃないんだよ。こんなダメな社会に飲み込まれるぐらいならさ。誰とも口を聞かんよ」
「それであんた1人だけが勝者みたいな考え方なの?世捨て人になりたい人なんていくらでもいるって考えたりしないの?」
ミミは釘尾にさっき捕まえたばかりの魚を寄越した。
「その魚は市場に出れば数万の値段がつく高級魚。刺身にして食べてごらんなさい」
釘尾は空腹に耐えかねて、その魚を食べた。
「うめえ!」
「さ、あんた博士に会う気になったわね?」
「さっきから博士博士ってなんでい。要するに俺に似た世捨て人の博士でもいるのか?」
「さすが察しがいいわね。浦島太郎の話は知ってるわよね?君は焦って玉手箱を開けたりしないわよね」
「まあ、俺あ、俗世の欲も立ちきって獣人にでもなるかという心持ちなんでね」
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