利用規約その1

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利用規約その1

20○○年11月1日夜20時34分のこと。 私、高島73歳は今、或る医大総合病院に居る。と言っても外来を受診しに来ている訳ではない。  第五病棟に今朝入院してきたばかりの新参者である。 今日は朝から忙しかった。いま、ようやく落ち着いたところである。 というか、明日は9時半から手術の予定だ。そもそもこれが本命である。 「高島さん、失礼いたします」 と一人の若い看護師が部屋のドアをノックして入って来た。 「わたくし今夜の夜勤を担当いたします相沢と申します。何かありましたらナースコールのボタンを押してくださいね、それと間もなく消灯の時間なので宜しくお願いいたします」 「あっ、そうなんですか?・・個室でも消灯時刻の規則なんて有るんですね?」  私は正にこの文章を立ち上げるためにオーバーテーブルの上でパソコンを開いていた。(オーバーテーブルとは、ベッドに座りながら食事をしたるするためのベッドを跨ぐ可動テーブルの事である) パソコンとはいっても、セキュリティー保護のためネット環境は提供されてはいない。 「でも・・他のお部屋の患者さんの手前もありますので、適当なところで消灯してくださいね」 ・・・・・ そう言えば夕方の17時前だったか看護副師長と名乗るナースが自己紹介を兼ねて私の部屋を訪れていた。その際だった、シャワーの使用時間を巡って私に利用規約を厳守するよう要請された。 「高島さん、明日は朝から手術なのにまだシャワーお済じゃないんですか」 副師長はドアが開けっぱなしになった乾いたシャワー室の床を眺めながら言った。 「えぇ、今日は手術前の口腔ケアのため歯科に呼ばれたかと思うと、放射線科でCTでしょう、その帰りに同じ地下階の売店で手術用の紙おむつを買いに行ったりで、ようやく今、着替えや身の回りの品のそれぞれの配置が終わったところで、家族が傍で付き添えないなんて規則も不自由ですよね」 「だとしても17時までに済ませて欲しかったですね、私たちナースは良いんですが清掃担当者の帰る時刻が遅くなりますので」 そんな決まりがあるなら、入室の際、説明して欲しかったけど、ここは逆らわずに、穏やかに、穏便に。 「あっそう、そんな決まりが有ったんですね、すみません。それじゃいまから直ぐに入りましょうか?・・でも自宅じゃ湯冷めを嫌って18時過ぎの入浴だったもので・・それにしてもこちらは少し早くないですか?」 「あっ、そうかここは個室だったんですね・・時間制限は問題なかったんだ。でも、他のお部屋の手前もありますので、これからは適当なところでお願いいたしますね」 これが17時前の初期騒動である。
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