定年退職と魔法グッズ店

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定年退職と魔法グッズ店

 わたがし文具店。今日で退職の日、ワシは定年退職するのだ。世代世代で進化をとげてきたペン達や事務用品、バインダーや手帳達ともお別れか。  若い女性がカラーペン、いや、ハイロット製キラッとペンシリーズの最新型の青色ペン、で試し書きをしている。  店内で探してる様な男性は、手帳コーナーで触れている。いつもの常連さんの中年男性はいつもの注文をする。前の伝票を持ち出し声を掛けるとカウンターに置く。 「いつものを伝票通りで」 「はい、かしこまりました。電話番号は伝票のもので大丈夫ですね」  常連の中年の男性は。 「これがないと困るんだ」  ワシは伝票を写し、取り寄せ商品なので型番を写している。されどペン、ペンだけで何百とメーカーがしのぎを削っているのだ。  いつも定期的に注文するのは気に入ってるからだろう。その心意気に愛着すらわいてくる。涙もろいなワシは。  いつも通り写して、若い新人さんにワシは今日で最後だからと念を押し、若い新人さんにレジを任せる。伝票写しは終わり。 「一週間以内には届く予定です」 「そうかい、解ったよ」  中年の男性は去って行く。電話が鳴る、業者さんからだ業者さんは取り引き量が多い、いつもの事務用品である。  各種帳簿類の注文が入る。ちなみに全ての商品や部品には名前がある。そんなものは、ふつうのワシでは多すぎて、到底覚えられるものではなかったし、それでもやっていける。  正しく名前を移していけば大丈夫なのだ、確かにオーナーは店舗の商品を決めるが、実際に把握しきれているかは、別の問題である。  ワシはいつも通り作業を終えて、円満退職。第2の人生が走り出したのだった。
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