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動画を巻き戻すように、僕は数日前の記憶を手繰り寄せる。
あれは、ゴールデンウイークを目前に控えた日。
校舎へと続く道で、連休へと期待を膨らませる生徒たち。
その中に彼女の姿を見たのだ。
胸の前で手を握り締めて立ち止まっていた。
希望を望むように、顔を上げて天を仰いでいた。
その瞳がまるで宝石のように美しくて、きらめいていたことを覚えていた。
今ここで出会ったのは、ただの偶然なのかもしれない。
こうして彼女に、彼女の作ったものに興味を示しているのは嘘じゃない。
・・・
僕の意識は現実に呼び戻された。
「君もやってみて良いよ」
え?
僕は恐る恐る指を伸ばした。
異性が近くにいる、ましてや彼女のものに触れるなんて……。
緊張で指がプルプル震えていた。
やっとのことで画面に触れると、僕が指を動かした方向にキャラクターが動いていた。
さらに、二回タップするとその場でジャンプした。
「……どうやって作っているんですか」
緊張を解きほぐすように質問考えてみた。
でも、思考回路があまり働かなかったので口の方が先に出てしまう。
それが彼女の興味を引くことになるとは思わなかった。
「……やっぱり君も興味あるんだね。
どんなコードを書いたかって話を聞きたいんだよね、そうだよね」
改めてニコニコしながら彼女は語りかける。
コード?
そんなもの、教室の隅に寝っ転がっている延長コードしか想像できなかった。
「ちがうよ、ソースコードだよ」
ソース?
それはメンチカツにかけるものだ。
ますます言っていることがよく分からない。
ふいに、彼女は手を口に当てて笑い出した。
少し体を揺らしながら、もう涙が出そうだって言いたげだった。
「<ソースコード>はプログラムの命令文のことだよ」
そうなのか。
恥をかいてしまった。
・・・
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