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僕は放課後に、ひとりパソコン室に向かった。 課題の調べものをやるつもりだった。 家にもノートパソコンがあるけれど、帰る前に作業をしようかな。 今日はたまたまそう考えていた。 放課後はいつも解放されている部屋だけど、あまり使う生徒を見たことがない。 だから、僕はある先客に興味を持った。 部屋の入口でスリッパに履き替えることもなく、その場を見つめてしまう。 その人は、部屋に設置してあるパソコンではなく、ノートパソコンを広げていた。 自前のものなのだろうか。 そして、なぜ学校のパソコンを使わないのだろうか。 少し遠目に見ているので、他のクラスの女子生徒だなというくらいしか分からない。 こちらが入ってきたことには全く気づいていないようだった。 すごい集中力なのかな、と思ったけどイヤホンで何かを聞いているだけのようだ。 小刻みに首を揺らしているので、ハーフアップの髪が躍るように揺れていた。 まあ、あまり他人に注目するのはよくないな。 僕は彼女から離れた適当な席に座って、パソコンを起動した。 静かな部屋に自分のタイピングする音が響く。 なんだか集中できるBGMのような空間だなって感じた。 でも、その心地良さはすぐに打ち消されてしまうのだった。 僕の耳に新たなタイピング音が流れてきた。 先客の人が作業している音だろう。 それはだいぶペースが速く、まるでメトロノームで早回ししているような感覚だった。 僕はついその音の方を向いてしまう。 さくらんぼを思わせる朱色の細い眼鏡フレーム。 彼女の横顔は一心にノートパソコンに向かっていた。 相変わらず僕の方には気づいていない。 だけども、僕は彼女の姿に釘付けになった。 その瞳がきらめいていて、なんだか言葉が伝わってくる気がした。 ……楽しいよ。 そのテレパシーが届いた僕は、つい席を立って彼女の方に近づいていった。 ここからノートパソコンの画面が見えそうだ。 何をしているのだろうか。  ・・・
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