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僕のわくわくした感情は少し中断されてしまった。 部屋に流れてきたのは、彼女がテーブルの上に置いているスマートフォンの通知音だった。 「あ、ママか」 そうつぶやいた彼女は、席を立って部屋の外に出ていった。 彼女のノートパソコンがその場に残されている。 あまり見ちゃいけないな。 自分の席に戻ろうとしたけれど、僕の視界の縁に流れている映像に引き寄せられた。 「あ……」 僕はその言葉に慌てて振り返った。 パソコン室の入り口には、手のひらを小さな口に当てていた彼女が立っていた。 ごめんなさいという言葉が、自分の頭の思考より早く口に出てくる。 頭を下げながら急いで戻ろうとする。 振り返った僕の肩を、彼女の手が触れた。 僕は足を止めて恐る恐る彼女の方に向き直った。 「私のパソコン、見た?」 「えっと……」 「見たんだ?」 彼女の笑顔から、言葉が降り注ぐ。 これは怒られるパターンなのだろうか。 「あ。はい……」 思考が停止した僕はなにも言えなかった。 見てはいけないもの、パンドラの箱でも開けたのだろうな。 「……どうだったかな」 どうだった? 彼女はよく分からないことを口にした。 少しその表情を見ると、少し照れているような、はにかんだような。 不思議な表現だった。 「……か」 僕の喉からゆっくりだけど台詞が出てきている。 彼女はそのよく分からない表情のまま首をかしげる。 「可愛かったです!」 僕は正直に言葉を絞り出した。 だって、ノートパソコンの画面に映っていたのはアプリの実行画面だったのだから。  ・・・
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