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僕はA4サイズの用紙を穴が開くほど見つめていた。
少しずつ読んでノートパソコンに打ち込んでいく。
これは何かの暗号か?
そこにアイスコーヒーが置かれた。
僕は少し身体を伸ばして休憩すると、目の前に座った人物 –有坂先輩だ- の方を見た。
「こんな暗号みたいなの、全然わからないんですけど」
僕はつい、頭の中にある言葉を口にした。
彼女はこちらを見て、形の良い微笑みを見せた。
ここは、学校の近くにある喫茶店だ。
・・・
先日のパソコン室での出来事だ。
目の前に立つ人物は、こちらを向いてニコニコ笑っていた。
こちらに手を広げたまま、じっと待っている。
名前を有坂ことりといった。
彼女の表情は元気いっぱいという雰囲気が映し出されていて、まるで太陽のように眩しかった。
最初、この教室で見たときは少し大人びた印象を持っていた。
リボンで結われているハーフアップの髪が少しだけ茶色に見えるのは、染めているのか自然なものなのか分からない。
それがこのように笑顔になると年相応の、もしくは少し年下の感じがしている。
不思議な少女だった。
高校の制服 -紺色のブレザーと細かいチェックのスカート- の着こなしは完全に校則の範囲内だ。
素足の膝上が見えているのは、たぶん彼女のスマートな体格のせいだろうか。
あまり見ているわけにはいかないけれど。
胸元にある赤いリボンは、ひとつ上の二年生の学生カラーだ。
有坂先輩のノートパソコンには、森の中に居る赤ずきんみたいなキャラクターが映し出されていた。
「これを作ったんですか?」
僕は画面を見ながら、瞬きしている。
傍らに立っている彼女は、そうよ、とさも自然な風に答えた。
僕が画面を見つめていると、彼女はこちらに近づいて僕の真横に立った。
まるで頬が触れそうな距離に、緊張の二文字が辺りを包んだ。
僕は思わず彼女の横顔を見てしまう。
僕にまったく気づく様子もなく、彼女は僕に声をかけた。
「ほら、見てみなさい……」
先輩はその画面を指でつついている。
すると赤ずきんのキャラクターが動いたり、ジャンプしたりしているじゃないか。
僕はそっと視線だけ動かして、彼女の顔を改めて見てみた。
彼女の楽しそうな微笑みの奥にある瞳にピントが合った。
そうだ、彼女の姿を見たのは今日がはじめてじゃなかったんだ……。
・・・
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