最終章

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「こないだ行った所は、辞めません? 私も中に入る迄忘れてましたけど、 前に撮影で一回来てたホテルなんで」 「そう? けど、俺、そこの辺りも覚えてねぇからなぁ」 「本当に、覚えてないんですか?」 「ああ。 お前がAV女優だって事は覚えてるし、送り迎えしてた事とか。 けど、そうやって、具体的な撮影場所や、お前のその撮影中の事とか、 マジで、一切思い出せないんだよ。 他の子のは、覚えてんだけど…」 「そんな事ってあります?」 成瀬は、一種の記憶喪失になったみたい。 それは、私がAV女優としての、仕事中の事に関してだけ、 すっかりと記憶から抜け落ちたらしい。 その要因は、飛び降りたあの時、 頭を強く打って…っていうのが、 医者の見解みたいだけど。 本当に、そんな事ってあるの? 「まぁ、忘れたい事忘れられたんだから、 それでいいんじゃね?」 そう言われると、そうかもしれないけど、って思ってしまう。 「けど、ホテル代もバカになんないし。 一緒に暮らさないか?」 「部屋借りる初期費用とかあるんですか?」 「それは、お前の貯金とか…」 「最低。 篤は私と暮らす時、ぜーんぶ出してくれたのに」 「は? それって俺を売った金だろ!」 「そうだと思いますけど!」 そう言って、成瀬と目を合わせ、 笑い合った。
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