もう少しだけ、恋をしてもいいですか？

おじさんと若者はゲイシャで繋がる

　新年度初日だけあって、残業する者は少なかった。課長である俺も早めに仕事を切り上げ、職場を後にした。

　職場から家までは約20分。今日は久しぶりに自炊でもしてみるか。そう考え、帰りがけにスーパーに立ち寄る。惣菜を2つ選び、野菜と豆腐、そして麻婆豆腐の素を購入した。あと、忘れずにビールも。

　自宅に帰り、手早くシャワーを浴びる。その後、冷蔵庫から今しがた冷やしたビールを取り出し、勢いよくプルトップを開け、喉に流し込む。

　ほっと息を1つ吐き、野菜と豆腐を刻んで、深めのフライパンに入れる。野菜がしなってきたら麻婆豆腐の素を入れて、しばらく煮込む。

　惣菜をテーブルに並べ、IHコンロの火を止める。麻婆豆腐を皿に盛り、本日の夕食は完成。ごくごく簡単な物だが、実に旨そうに見える。

　2本目のビールを開け、グラスに注ぐ。一礼して、麻婆豆腐に手を付けようとした時、それを邪魔するかのようにインターホンが鳴った。

　俺はしぶしぶ箸を置き、液晶を確認する。
　有川さんの顔が見える。自然と心がほころぶ。