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俺は今、一人暮らしの女子大生の部屋にいる。おしゃれなテーブルを前に正座している。
目の前にはカップに注がれたゲイシャと、先ほど渡したシフォンケーキがある。
「…いただきます」
俺はひとことそう言って、目の前にあるゲイシャを口にした。
口の中で上品な苦味が広がる。苦味の中にも、ほどよい酸味。そのバランスが丁度いい。
ゴクリと喉の奥へと流す。その後にくる香りも心地いい。これがゲイシャか。
「どうですか?」
有川さんが大きな目を更に見開いて、興味津々に覗き込んでくる。
「有川さんも、どうぞ」
俺がそう言うと、ひとつお辞儀をして、有川さんがカップに口をつけた。
その光景を見ながら、俺は確信した。
俺、この子が好きだ。
ゲイシャを一口、コクリと飲み、静かに目を閉じた有川さんに、心の中で声をかける。
おそらく、あなたと手を繋ぐことはない。
間違いなく、あなたを抱きしめることはない。
あなたの前に素敵な人が現れたのなら、その胸に飛び込んでほしい。
でも、もう少しだけ。
もう少しだけ、俺に恋をさせてくれないか?
夢を見させてくれないか?
そばに置いてくれないか?
目を閉じたまま余韻に浸る有川さんを見つめ、同時に激しく脈打つ鼓動を感じながら、俺はもう一口、ゲイシャを口にした。
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