何度でも君と

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──あほちゃうか。 何でこいつら笑わへんねん。 漫才ライブ見に来て笑わへんとか、頭おかしいやろ。 俺はくすりとも笑わない観客を目の前にして、実は観客は『笑ってはいけない漫才観劇』を実践しているかと思った。 そして、俺が考えた渾身のまで観客にスルーされて俺達の漫才が終わった。 『はい、「ベスト」の二人でしたー! ありがとうございましたー!』 司会の流れ作業のような紹介が終わり、まだ雨音の方が力強いと思わせるまばらな拍手を受けて俺達は舞台袖に捌けた。 そして俺らと入れ違いに何処かで見た事あるような全裸に股関だけに扇子を貼り付けたヤツが舞台に出て行った。 司会の紹介と出囃子がなる。 『テレビ出演を賭けた、若手お笑いサバイバル・ライブ! 生き残るのは誰か! 次は裸の魔術師! 裸イッカンの登場です!』 そして少しすると舞台袖にまで聞こえる観客の笑い声が響いた。 「ちっ。なんやねん。あんなようやるわ。芸人やったら漫才やってなんぼやろ。裸で面白がる客も客もや。お笑いのレベル低いねん。そんな裸見て笑いたいなら全員ストリップ劇場行ったらええのに」 「カズ君、い、言い過ぎ」 俺の横でもごもごと言い淀むマサ。 大福みたいな顔に汗がうかんでいた。 キツイ照明のせいで俺も暑かった。 もう、この後の出番もないと思いきつく締めたネクタイを緩めた。 「マサ。お前もお前や。なんやねんあのボケ。タイミングが遅い。声もちぃさい。言葉にノリも迫力もない。踏み出すのがいつも遅いねん」 俺がだめ出しをすると、マサは苺大福見たいな色に変わっていった。 やっぱり小さな声で「足、引っ張ってごめん」と呟いた。 俺は大きくため息をつく。 「もうええ。俺は帰る」 「えっ、まだ結果発表が」 「あんなダダ滑りで優勝する訳ないやろ。それにこんなレベルの低いライブで優勝して出るテレビ何てイロモノ扱いに決まってる。こっちから願い下げや」 「でも」 「でもも、ヘチマもないわ。あ、お前は関西弁マスターする為にライブ見とけよ。はよ関東訛り直せや」 マサはまだモゴモゴと何か言いたそうだったが俺は振り返る事なくその場をあとにした。 真っ直ぐに楽屋と言う名ばかりのタコ部屋みたいな部屋から荷物を取って、劇場を立ち去ろうとしたとき裏口で先輩に呼び止められた。
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