何度でも君と

2/7
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
派手なアロハを着た若手の10のアロハ先輩。 最近関西ローカルの深夜番組にちょこちょこ出てるからって先輩ヅラする人だった。 いや、実際に先輩なのだけど面倒な人に捕まったと思った。 「なんや。お前もう帰るんか。まだライブ終わってないやろ」 煙草を咥えて俺に近付いてきた。 裏口にある禁煙所で煙草を吸ってたらしい。 「お疲れ様です。もう結果は分かっているんで帰ります。新しいネタ作る方がええかと思って」 「お前は見た目通りにシュッとしたヤツやな。だからオモロないちゃうんか」 ──10年の芸歴で若手と言われる人に何がわかんねんと思いつつ。 「せやったら。硫酸でも顔に掛けて、それで笑えるならそうしましょか」 「そーいうとこや。ホンマ顔は別嬪やのに中身は可愛ないな。まぁええわ。それよりカズ。相方大事にしたれよ。じゃあな、お疲れさん」 なんやねんそれ。と思いつつも俺は軽く頭を下げてその場を後にした。 そして出待ちとかいう俺の見てくれにしか興味のないファンもどきを数人適当に相手をしてようやく帰宅した。 「疲れた……」 俺はスーツのまま安ベッドの上に倒れ込みつつ、慣れた手付きでスマホを操作して癒しの動画を流した。 それは伝説の漫才師「ヤスイ&キヨイ」のどつき漫才。 もう何回見たか分からない。 正直ネタはぜんぶ覚えてる。 「それでもオモロイとか神すぎんねん」 今の漫才とは違う、お笑いとはこうであると言わんばかりの正統派にして王道の漫才。 言葉の緩急。 静と動。 ボケとツッコミ。 その全てが俺の理想の漫才。 見てくれてなど関係無しに言葉だけで評価される漫才。 面白いか面白くないか。 年も性別も姿も関係ない。 自分をありのままに評価される。 だから俺は漫才師に憧れた。 単純に漫才が面白くて好きだったのもある。 周囲からはモデルやアイドルの方が似合っているいとか言われたがそんなのは余計なお世話。 そんなモノになったら余計に見てくれだけの存在になる。 だからこそ、言葉だけが評価される漫才師になりたいと思った。 しかも人を笑わすだけで金が入る。 「いや、それが難しいんやけどな」 スマホからは今日俺が得たかった爆笑の声が流れてきた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!