何度でも君と

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「あーねむ。でもええの出来たと思う。今回のは『しゃべくり漫才』や。これが次の敗者復活戦のやつや。どうや。ええやろ」 「しゃべくり漫才……ゴール巨神・半神師匠を手本にしたんだね」 「せや。マサもよう分かってきたな」 まだ舞台の上以外では関東喋りが抜けきらんな。まだまだやと思った。 俺は朝までネタ出しをしてそのままバイトをこなしてきた。そしてバイト終わりにマサと合流して安居酒屋に入った。 眠かったがそれ以上に腹が減った。 俺はメシを食いながら今回のポイントはその喋り方、テンポに妙があると力説した。 マサは烏龍茶をチビチビと飲みながら頷いていた。 そして敗者復活戦までに稽古や練習の算段をしていたときにやおらマサが声を上げた。 「あ、あの。カズ君!」 それは割とデカい声でびっくりした。 「な、なんや。いきなり大きな声で喋んなや」 「ごめん。その。昨日の事だけども。アレは良くないと思う」 「アレってなんやねん」 「途中で帰る事。確かに僕達の出番は終わったかしれないけどライブは終わってなかったし、お客さんに失礼だと思うんだ。それに他の皆が」 俺は口に含んでいた枝豆の皮をべっと、皿の上に吐き出した。 「それがなんやねん。あんな裸で喜ぶ客なんかいらんわ。それに他の皆って。その皆のつまらんネタ見るよりヤスキヨ漫才見る方がええ。それにネタ書く方が効率ええ」 「でも」 「じゃあお前は何番煎じの歌ネタや、ようわからんダンスの振付けネタがしたいんか。下手くそなモノマネがしたいんか。あんなん漫才ちゃうやろ。漫才の劣化コピーや。偽物。本物ちゃう」 俺は生ビールを喉に流し込む。 その苦味がなぜか今日は身体によく染みる気がした。そのままマサは下を向いてしまった。 「はあ。お前。漫才やりたいって俺んところ来たんやろ。俺の漫才論知ってるやろ。あー、もうメシが不味くなった。もう今日は帰るわ。とりあえずそのネタ覚えてや。じゃあな」 俺は残りのビールを飲み干して財布から三千円を置いて席を立った。 そのままマサを見下ろすような形で捨て台詞を吐いた。 「実家ぐらしで余裕あるやつは羨ましいわ。じゃ、また連絡する」 少し言い過ぎたかもと思ったが事実マサは、バイトなどをしなくても実家が裕福で余裕のある暮らしをしていた。 そう、漫才ならスーツ姿。 そのスーツを用意して来いと言うと一番最初、マサは全身グッチのスーツを揃えて来やがった。 俺は安売りの店を駆け回って一番安値のモノで揃えたというのに。 そんな事をふと思い出した。 そのまま吐いた言葉は撤回せずにマサを残して店を後にした。
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